タナカマモルを愛せるか

※ネタバレ含みます

※原作未読です

※原作読んであまりに見当違いなこと言ってたら恥ずかしいので消します


愛がなんだ を見た。

すごい映画だった。正直なところ、ある程度予想はしていた。きっとテルちゃんが痛くて、マモちゃんが酷くて、どうしようもないよくある恋愛を描いているのだろうと、予想していた。けれども、その予想は大きく裏切られた。より正確にいうと、その予想は途中まで完全に当たっていて、私はテルちゃんやマモちゃんに苛立ったり時に愛おしく感じたりしながら映画を見ていた。問題はラストだ。夜の街に消えていくマモちゃんとすみれさんを見るテルちゃんの目、映画館に響くテルちゃんの言葉、そしてラストシーン。あまりの怖さに自分の二の腕を強く握ってしまった。こんなにこわい思いをしたのは久しぶりだ。もう私はゾウを今までのように見ることができない。


そもそもとして、私は劇中の誰にも共感できなかった。もちろん、彼らの言動に思い当たる節がないわけではない。私もそれなりに人を傷つけたことがあっただろうし、ボロボロになったこともある。でも、誰の気持ちも分からなかった。ナカハラのように「自分じゃなくてもいい」と思ったことはないし、すみれさんのように自由さを追い求めたこともない。マモちゃんの中途半端さを許さないし、葉子ちゃんがナカハラと寝る気持ちもわからない。テルちゃんの狂気もついぞ理解は出来なかった。ただ恐ろしいのは、彼らに対してなんの理解もできない私にすら、鑑賞後とてつもない狂気の波がやってきたことだ。彼らが静かに狂っている様を見て、私の中のおかしな部分が共振する。私の狂気の発現は、彼らに共感したから起きたものではない。彼らの狂気のエネルギーに当てられて眠っていた私の狂気が目を覚ましたような、そんな感覚だ。それが恐ろしい。これが私にだけ起きた現象でないのならば、レイトショーのあのスクリーンで、座席数分の狂気が渦巻いていたことになる。劇中の彼らに対するもの同様、私は誰の狂気に対しても共感できないだろうし、私の狂気を彼らもきっと理解できないだろう。


あの時映画館の1スクリーンをそんな恐ろしい場所に変えてしまったのは、やっぱりテルちゃんだろう。岸井ゆきのさんは本当に素晴らしかった。テルちゃんのこわいところは、ほんとうに「これでいいんだ」と思っているところだと思う。テルちゃんが怯えるのはマモちゃんに対してだけで、あとはちっとも臆さない。123分間ずっと、テルちゃんはマモちゃんにしか執着しなかった。だからこそマモちゃんにあれだけエネルギーを集中できたのだろう。

そこでふと思う。

私はタナカマモルを愛せるか?

答えはノーだ。勿論ノー。直ぐにノー。

すみれさんに出会う前のマモちゃんならまだ良かった。シャンプーしてくれたマモちゃんは愛しく感じた。でも、すみれさんが現れてからのマモちゃんは絶対に無理。成田凌さんの秀でていたところは、すみれさんの前での振る舞いがマジで気持ち悪かったところだと思う。イケメンなのにあんなに気持ち悪いのは不思議だ。いそいそと灰皿換えるところも、すみれさんを見てニヤニヤするところも、キツかった。何よりもキツかったのはイラつくすみれさんの後をルンルンで追いかけるシーン。イケメンの成田凌さんをキモいと思う日が来るなんて思ってもみなかった。マジでキモかった。

というくらいキモいマモちゃんを、テルちゃんは愛している。テルちゃんこそ、マモちゃんのキモいところをこれでもかというくらい見ているだろう。それでもテルちゃんは引かない。

私だったら、どんなにマモちゃんが好きでも、すみれさんの前でのマモちゃんを見たら一瞬で気持ちが冷めてしまうと思う。湯葉食ってんじゃねーよ!で恋が終わる。テルちゃんは違う。キモい、と思っていたはずだ。でもマモちゃんが欲しい。その気持ちを変わらず持てる。きっとテルちゃんは、ずっと薄々気づいていたはずだ。これは恋じゃないと、マモちゃんが湯葉食ってたときから気づいていたはずだ。マモちゃんが家の下まで来て微笑むのを見た時、テルちゃんは恋の終わりと執着の始まりを確信したと思う。けれど彼女はマモちゃんを諦めない。友達を失くしても、恋人になる可能性をザクザク切り落としても、マモちゃんのそばにいる選択肢を選び続ける。彼女は止まらない。ほんとうに、「これでいい」と思っているから。

そのテルちゃんを私は尊敬する。畏怖に近いかもしれない。だって私にタナカマモルは愛せない。その強さとパワーを私は持っていない。未知の領域だ。知らないものはこわい。私はテルちゃんがこわい。


終始、こわい映画でしたという話に尽きる。

とにかくこわい映画だった。急いでこのブログを公開したのは、なんだか感情が絡まって寝付けなかったからだ。さらに言えば、「愛がなんだ」を物語としてまとめ上げた角田光代さんと今泉力哉監督の実力を肌でビリビリと感じたので、自分も何かしら言語化したくなったからだ。

こわかったけれど、良いものを見せてもらった。

ありがとうございました。



追記1

ナカハラよ、どこまでもナカハラだな。一番愛おしかった。


追記2

動物園でテルちゃんが泣くシーンに関してですが、私はテルちゃんが「仕事辞めるかもって言ったのにマモちゃんの反応が薄すぎて悲しくて泣いた」んだと思っていたんですけど実際は真逆だったので、ほんとうにテルちゃんの気持ちを慮る才能がないです。